ある女性起業家の成功物語です。
それは、6年前の12月でした。セミナーに参加した私の隣に30代前半とおぼしき女性Tさんが座られました。自己紹介をすると、Tさんは「近々、ゴルフのネットショップを開きたい」とのこと。
話ははずんで、私が出店のお手伝いをすることになりました。
ただし、Tさんは業界の経験も商売の経験もありません。そこで、まず事業計画書を作り始め、2月には完成しました。それをもってメーカーさん、問屋さんに交渉に行きます。ところがどの会社も全く相手にしてくれません。
そこでへこたれないのがTさん。西へ東へ、取引先を求めて奔走を続けます。その甲斐あって、何とか商品をかき集めることが出来たのです。
とうとう4月にオープンしました。Tさんは商品が売れるかどうか不安でした。
ところがビックリするようなことが起こります。オープン初日から、お客が殺到したのです。
用意をした商品がどんどんと無くなって行きます。急いで追加で仕入れをすると、それも右から左です。そんな驚きのオープンから3年、Tさんのショップは目標の売上1億円を達成することが出来ました!凄いですね。
ある方の紹介で、その店を訪問しました。何かアドバイスをしてやって欲しい、ということでした。
片田舎にあるお店は、30坪ほどの競技専門店です。店主に話を聞いてみると、最近売上が下がってきているとのこと。
何とかお店を立て直したいという気持ちがひしひしと伝わってきます。
「何か良い手はありますか?」という店主の問いに、私は「ブログを書いてみましょう」という提案をしました。「ブログ?」 店主はきょとんとしています。「ブログって、いくらかかるの?」まだブログそのものが余り知られていない時期です。無料で出来るとお伝えすると「ふーん、でも僕には文章を書く才能なんてないよ。それに第一何を書いていいのか分からないよ」とのこと。当然ですね。そこで私は提案しました。「三行くらいなら書けますよね。内容は、その日お客様と会話したことにすればどうでしょう?」「それなら書けそうだな」ということになって、店主は早速ブログに登録をしました。ただし、私がお願いしたことがあります。「毎日書き続けて欲しい」ということです。
店主はそれを約束し、とうとうブログ生活が始まりました。
どんな結果になるか予想はつきませんが、何か新しいことを始めなければ事態は好転しないだろうというのが、店主の思いではなかったでしょうか。そして、何と店主は毎日もくもくとブログを書き続けます。私は正直驚きました。しかし、ブログを始めた最初のうちは、読者の反応もまばらです。
ところが、半年ほど経ったころでした。突然、読者からの反応がふえ始めます。ネット上で店主のブログが話題になったのです。影響力のある一人のブロガーが、店主のことを褒める記事を投稿したのがきっかけでした。お客様が飛行機でやってくるそうなると、しめたものです。
評判が評判を呼んで、店主宛にひんぱんにメールが届くようになります。返事を書くのにもひと苦労です。日増しにお店のファンが増えていきます。とうとう、飛行機に乗ってお店にやってくるお客様も現れました。それも、一人や二人ではありません。凄いですね。ブログを書き続けた成果といっていいでしょう。
長年築き上げた店主の持つ「強み」が、ブログで発信された結果です。お店は、ブログで見事に再生しました。店主の努力が実った瞬間です。
F市にある老舗スポーツ店さんからメールが来ました。20代の後継ぎの方です。
最近商売が壁に当たっているので、どんな手を打ったらいいか、という相談でした。何度かメールのやり取りの後、直接会って話をしましょう、ということになります。
会ってみると、お店の立派な方針書があるではありませんか。「どんな商品を売っていくか」「どんなエリアを攻めていくか」「どんなお客様に売っていくか」「どんな方法で売っていくか」「お店のどんな強みを活かしていくか」といったことが列記してあります。「う~ん」悪くはありません。
よく考えられています。詳しい説明を聞くと、なかなか勉強家で熱心な方です。しかし、この方針書には大事なことが抜けていました。
そこで、聞きました。
「あなたは、どんなお店になりたいのですか?」そして、「何のためにスポーツ店を経営しているのですか?」
若武者はちょっと考えていましたが、曖昧な答えでした。私は、その答えを出してから販売戦略を考えられた方が良い、というアドバイスをしました。そして、こう付け加えました。
「売り方や商品も大切ですが、お客様との関係づくりをすることが、もっと大切です。お店の思いに共感していただけるファンを作っていくことが業績アップの最大の近道です。」
その日は、私の話を素直に聞き入れられて、お帰りになりました。
その後、こんな便りをいただきました。
「そういったものが重要だとわかっていましたが、どうも、わかったつもりでいたようです。改めて、自社の理念を考え、それを軸にファン作りに力を注ぐようにしました。今は理念があるためブレなくなりました。先生にお会いしていなければ、“儲かる”という手法に振り回されていたでしょう。本当に感謝しております。」
このお店は、もう大丈夫です。やるべきことが明確になりました。きっと何年か先には、県下でも有数なお店に成長することでしょう。
そのお店から相談があったとき、業績は赤字でした。当然、「どうしたら業績が回復するか?」という相談です。
私は決算書を見ながら、赤字になった原因を探っていきます。比較的容易に対策は見つかりました。商品戦略と販売戦略の見直しをしよう、ということになります。
ところが、店主と話を進めていくうちに、もっと違った問題が見えてきました。 どうも、社員のモチベーションが低いようです。戦略を実行する人たちのやる気がなければ、うまく進んでいきません。 よくみると、社員間のコミュニケーションがうまく取れていないようでした。
そこで、戦略の実行の前に、皆さんに「サンキューカード」に挑戦していただくことにしました。
社員同士が、名刺大のカードに「ありがとう」と書いて渡し合います。
「○○さん、商品整理を手伝ってくれてありがとう。△△より」のように。カードを貰った人は、事務所内の「サンキューカードボックス」に投函します。そして、一ヶ月後にカードを一番多く貰った人と一番多く書いた人を皆の前で表彰する、という仕掛けです。
目的は、社員同士が感謝をし合う習慣を作り、活気のある職場にすることです。
ところが、最初のうちは、誰もカードを書こうとしません。当たり前です。
そこで、店主が積極的に「サンキューカード」を書くようにしました。すると、徐々に書き始める人が現れます。「ボックス」にカードが増えていきました。ボックスのカードは誰でも見られますので、皆さんカードのことが気になって仕方がありません。一ヶ月後、何とボックスにはカードがあふれるほどになりました。その後もサンキューカードを続けます。すると、どんどん社員の皆さんが明るくなって行くのが分かります。社員同士、お互いのことを気遣うようにもなりました。あきらかに元気な売場になったのです。
その結果、一年後、お店の業績は回復しました。もちろん、サンキューカードだけで回復したわけではありません。売上や利益を上げるための手もうちました。
しかし、サンキューカードでモチベーションが上がったことが、その後の実行につながったのではないでしょうか。